低緯度域の物質循環 × 気候変動 × 生態系
熱帯・亜熱帯の沿岸ではガラスのように透き通った海の中にたくさんの生き物を見ることができます。私の研究はそこに違和感を感じたところから出発しました。水の透明度が高いということは、生き物に必要な栄養塩がほとんどないことを現しているからです。私たちはその見えない栄養塩の循環を明らかにしようとしています。
サンゴ礁は水圏・地圏・大気圏の境界に位置し、様々な地球環境変動に直面しながらも、高い生物多様性を維持している不思議な海域です。一方で高い日射量によって栄養塩が生産者によりすぐに消費され、枯渇してしまうため、継続的かつ定量的な栄養塩の観測記録は少なく、その循環は十分に明らかにされていませんでした。
そこで私たちはサンゴの骨格に注目しました。塊状のサンゴの骨格は樹木のように年輪を形成し,その成長方向に沿った地球化学分析によって、水温や塩分、サンゴ礁に流れ込む物質の濃度などサンゴ礁の環境変化を定量的に知ることができます。私たちは主要な栄養塩トレーサーとして用いられてきた窒素の同位体比をサンゴの骨格から分析することに成功し、サンゴ礁の栄養塩の起源とその季節〜経年変動を過去数百年、化石を用いるとさらに時間を遡って知ることができるようになりました。その結果、サンゴ礁は海流や湧昇流に晒され、時には窒素固定による窒素を活用するなど、海域によって様々な栄養塩を利用して生態系を維持していることが明らかになってきました。また、栄養塩の起源は気候変動によって大きく変化している事もわかってきました。さらに近年では、その栄養塩の循環に私たち人間の生活が影響を与えつつあります。
サンゴ礁の生態系を育んだ海洋環境、気候変動と、さらに私たちヒトとの関わりを一つのシステムとして捉えて理解し、その中で私たちがどのように振る舞うのが良いかを考え、サンゴ礁地域の人々と対話をしながら未来を作っていくことを目指しています。
Research Topics:研究成果の解説・紹介
日本語の解説はプレスリリースとして公開されたものを再編集しています。
-
NEWS:「地球化学」に論文が掲載されました
2017年度日本地球化学会奨励賞受賞記念論文「造礁サンゴ骨格の窒素同位体比指標」が和文誌「地球化学」に掲載され… Read more
-
HIGHLIGHT: 地球温暖化停滞時におけるインド洋ダイポール現象の変化を復元
数年周期で,西インド洋では多雨・温暖化,東インド洋では乾燥・寒冷化することが知られており,この変化を引き起こす… Read more
-
HIGHLIGHT: シャコガイ殻に残された台⾵の痕跡〜新たに発⾒ 過去の台⾵の復元指標〜
概要:本研究では台風を経験したシャコガイの殻を調べることで,これまで復元できなかった過去の台風の情報を復元する… Read more
-
HIGHLIGHT: 観測記録が不足するオマーン湾の湧昇流発生をサンゴが記録
概要:湧昇流※1は海洋表層に栄養塩を輸送するため,海洋生態系や漁業に影響を与えると考えられていますが,湧昇流の… Read more
-
HIGHLIGHT: 20世紀の黒潮流量の長期復元に世界で初めて成功
概要:世界最大級の海流である黒潮は熱帯から温帯へと大量の熱を運び,北太平洋の気候へ大きな影響を与えてきました。… Read more
-
HIGHLIGHT: 貧栄養海域でサンゴ礁が形成される謎 ーサンゴ骨格を用いた栄養塩起源の推定法ー
熱帯・亜熱帯の海は全海洋の60%以上を占めますが、生物生産に不可欠な栄養塩(生物の生育に必要な元素—窒素、リン… Read more
ACCESS
〒464-0813
名古屋市千種区不老町
名古屋大学環境共用館 319室
CONTACT
山崎 敦子
名古屋大学大学院環境学研究科
大気水圏科学系 物質循環学講座
生物地球化学グループ
サンゴ礁地球環境学研究室
yamazaki.atsuko.x5(at)f.mail.nagoya-u.ac.jp