サンゴは地球の歴史の中でリーフビルダーとして繁栄と衰退を繰り返してきました。現在の海洋表層では主要な炭酸塩生産者として活躍し、私たちは美しいサンゴ礁を見ることができます。サンゴ礁は水圏・地圏・大気圏の境界に位置し、これまで様々な地球環境変動に直面しながらも、高い生物多様性を維持している不思議な海域です。サンゴ礁やそこに住む生き物たちは、地球環境のシステムや変化を私たちにあらゆる形で伝えてくれます。サンゴ礁地球環境学研究室では、造礁サンゴ骨格の成長線解析、地球化学分析、群集組成の変動から、顕生代を通じてサンゴがどのように生きてきたのかを、サンゴを育んだ生態系や海洋環境、気候変動とともに考え、サンゴ礁と地球環境、そして私たちヒトとの関わりを総合的に理解することを目指しています。
ここでは、主な研究内容を紹介します。
サンゴ年輪と地球化学指標
ハマサンゴ属のサンゴに代表されるドーム状(塊状)に成長する造礁サンゴ群体の骨格には、樹木のように連続的かつ一定の成長方向に年輪が形成されます。ハマサンゴの年輪幅すなわち炭酸カルシウムの堆積速度は平均して年間1〜2cmであり、群体は大きいもので数 mから10 m規模に成長します。そのため、サンゴの年輪を遡ると過去数百年〜千年弱にわたる生息環境の変化を読み取ることができます。
造礁サンゴ骨格を構成する炭酸カルシウムは、酸に対して溶解性が高く、その化学組成を容易に測定できる利点があります。サンゴ骨格の年輪1本をさらに細分化しながら微小粉末試料を採取し、地球化学分析を行うことで、季節スケール(週〜月単位)の環境変動を得ることが可能になります。サンゴ礁地球環境学研究室では、水温・塩分指標である酸素同位体比や、水温指標であるストロンチウム/カルシウム比などの代表的な指標に加えて、骨格中の有機物の窒素同位体比(下記、低緯度域の物質循環を参照)など新しい地球化学指標の開発やキャリブレーションをおこなっています。サンゴが経験した環境をより多様に、精密に明らかにすることを目指しています。
気候変動とヒトとの関わり
造礁サンゴの骨格や二枚貝の殻が記録する季節スケールの環境変動は、私たち人間の生活環境の変化と同じ時間スケールです。更新世、完新世、現在に至るまでヒトは環境が目まぐるしく変化する中で、文化、文明、社会、産業を生み出してきました。私たちは地球環境の変化とともに、どのように生きてきたのか、そこに将来を生き抜くためのヒントがあるのではないか、と考えながら、サンゴ骨格から明らかにされる気候・海洋環境の変動とヒトの歴史や生活を比較しています。
後期更新世・完新世を中心に、気候と海洋環境の季節変化を捉え、考古学や人類学を専門とする研究者のみなさんと議論や対話をおこないながら、当時の人々がどのような生活を送ってきたのか、環境背景の解像度を高めたいと考えています。
サンゴ礁の形成
サンゴ年輪から推定されるサンゴ骨格の石灰化量を元に、サンゴ礁の形成速度(堆積速度)を計測しています。造礁サンゴの石灰化量は気候変動や周囲の環境に敏感に反応して変化します。また、サンゴの種類によって石灰化量が異なるため、群集組成によってサンゴ礁の形成速度も異なります。サンゴ骨格から読み取る環境の変化と石灰化量から、環境変動に対して、サンゴ礁の形成速度がどのように変化するのかを調べています。今後は様々な造礁生物の礁形成のポテンシャルも研究していきたいと思っています。
低緯度域の物質循環
熱帯・亜熱帯の沿岸ではガラスのように透き通った海の中にたくさんの生き物を見ることができます。私の研究はそこに違和感を感じたところから出発しました。水の透明度が高いということは、生き物に必要な栄養塩がほとんどないことを現しているからです。私たちはその見えない栄養塩の循環を明らかにしようとしています。サンゴ礁は水圏・地圏・大気圏の境界に位置し、様々な地球環境変動に直面しながらも、高い生物多様性を維持している不思議な海域です。一方で高い日射量によって栄養塩が生産者によりすぐに消費され、枯渇してしまうため、継続的かつ定量的な栄養塩の観測記録は少なく、その循環は十分に明らかにされていませんでした。
私たちは主要な栄養塩トレーサーとして用いられてきた窒素の同位体比をサンゴの骨格から分析することに成功し、サンゴ礁の栄養塩の起源とその季節〜経年変動を過去数百年、化石を用いるとさらに時間を遡って知ることができるようになりました。その結果、サンゴ礁は海流や湧昇流に晒され、時には窒素固定による窒素を活用するなど、海域によって様々な栄養塩を利用して生態系を維持していることが明らかになってきました。また、栄養塩の起源は気候変動によって大きく変化している事もわかってきました。さらに近年では、その栄養塩の循環に私たち人間の生活が影響を与えつつあります。
サンゴ礁の生態系を育んだ海洋環境、気候変動と、さらに私たちヒトとの関わりを一つのシステムとして捉えて理解し、その中で私たちがどのように振る舞うのが良いかを考え、サンゴ礁地域の人々と対話をしながら未来を作っていくことを目指しています。
Research Topics:研究成果の解説・紹介
日本語の解説はプレスリリースとして公開されたものを再編集しています。
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山崎 敦子
名古屋大学大学院環境学研究科
大気水圏科学系 物質循環学講座
生物地球化学グループ
サンゴ礁地球環境学研究室
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